犬の歯周病とは?おもな原因、症状、予防方法、治療方法などを解説

犬の歯周病とは?おもな原因、症状、予防方法、治療方法などを解説
公開日:2023年12月26日

犬にも人間と同じように歯周病はあります。毎日の歯磨きや口腔内管理が難しい犬のほうが歯周病の発見が遅れて重篤な問題になることが多いです。歯周病について知ることで明日から犬の歯周病対策に役立ててみませんか?

犬の歯周病を注意することの重要性

人間のように毎日の歯磨きすることが難しい犬にとって、歯周病は大きな健康リスクになります。
とくに犬にも高齢化が進み、高齢時に歯周病を含む口腔内環境が健康全体に悪影響を与えることも増えてきています。

歯周病は歯や口の中の問題だけではなく、下痢や嘔吐、消化器に影響を与えたり、咳など呼吸器、心臓病や肝臓病のリスクになったりすることもわかっているために、全身の健康にとっても非常に注意しなければいけない病気のひとつです。

歯周病を治すためには、原因となる口腔内環境を大きく変化させる、麻酔をかけての歯科処置を必要とするためにとくに高齢の犬の場合は問題になることがあります。

また、一度歯科処置などを適切におこなった後でも口腔内環境維持のためのメンテナンスをしなければ、一年もすれば元の状態になってしまうために、歯周病でもっとも大事なことは日々のケアになります。

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歯周病とは何か?その症状は?

犬の口の中には多くの細菌が存在します。それらの細菌と食べかすなどが歯の表面、歯と歯肉の隙間についてプラークという膜を形成します。

犬の場合3日もあるとこのプラークができてしまうといわれています。この膜が分厚くなっていくと歯垢・歯石と呼ばれる強固な構造物になっていきます。これらに含まれる細菌や細菌が生み出す毒素によって周囲の歯肉に炎症を起こしていく。これが一般的にいわれている歯周病です。

プラークを作り、歯石に変化し、歯肉炎を起こす、さらに進むと歯と歯茎の間に隙間を作ったり、歯肉自体が退縮して歯の根元が露出してきたりします。こうなると歯の根元で炎症を起こしたりして、歯を支える構造を破壊してしまい歯が抜けてしまったりします。

実は歯が抜けてしまったほうがまだいいときもあります。歯が残っているのにその周囲は空洞化し炎症から膿をためてさらに周囲に炎症を広げていくような状態が進行した歯周病が問題です。
こうなると、歯槽骨、歯を支えている骨も溶かしてしまい、下顎であれば顎の骨の骨折、上顎であればすぐ近くにある鼻腔にまで炎症が起きて鼻血やクシャミ、膿性の鼻汁を出すような症状も起こしてしまいます。

そして、その細菌や毒素を含む唾液を日々飲み込むことで胃腸や呼吸器に悪影響を与えるほか、血流に細菌が乗って全身に影響を与える状態まで進んでしまうこともあります。

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実は強くない犬の歯

実は強くない犬の歯

犬の歯の表面にはエナメル質という層があります。実は犬は人間よりもこのエナメル質が薄いです。エナメル質は一番外側で歯を保護しているバリアなのですが、一度壊れると再生できません。

エナメル質を抜けてしまうとその下は柔らかい象牙質という場所になってしまい、そこが露出してしまうと歯に穴があいてしまいます。犬の歯は実は繊細だと思ってください。

そのために、歯石対策として硬いものをかませるのはやめましょう。骨や鹿の角、牛のヒヅメなどで歯がかけてしまったり割れてしまったりして抜く必要が出たりします。
柔らかくて歯を磨く効果のある道具を使ってあげてください。

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犬の歯周病のサイン

犬の歯周病のサイン

飼い主様が一番わかりやすく歯周病に気がつくのは、口臭です。ひどいにおいだとまるで腐ったような悪臭がします。軽度の場合は少しにおうなと感じるくらいですが、重度となると顔をそむけたくなるくらいのにおいを発します。

唾液の増加や口周りの汚れも歯周病のサインの可能性があります。
繰り返す下痢、原因がはっきりしない咳、クシャミ、鼻水、一見関係なさそうなこれらの症状も歯周病から来ていることもあります。

定期的な健康診断で肝臓の数値が悪くなっている場合も注意が必要です。
ときに心筋症や全身的な敗血症、細菌が全身に悪さをして非常に状態が低下してしまい、原因として歯周病が考えられることもあります。

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犬の歯周病の予防方法

犬の歯周病の予防方法

歯周病の予防として、毎日の歯磨きに勝る対策はありません。
すでに高齢の場合は毎日の歯磨きを今から受け入れてもらうのは難しいかもしれませんが、さまざまな口腔内環境改善のための道具は存在します。その中で犬が受け入れやすく、毎日継続可能なものをぜひ取り入れてあげてください。

もしまだ犬が小さい、これから犬を飼育しようと考えている場合は、早いうちからしっかりと口腔内環境をよく保つための習慣をつけてあげてください。

実際の歯周病対策の方法

最高なのはブラッシングです。犬の歯を歯ブラシで磨くことができれば、プラークになる前に対応することができるために一番の歯周病対策となります。

同様にタオルやふきん、歯磨き用のグッズを用いた物理的な歯磨きもブラシには劣るかもしれませんが有効です。おもちゃで遊ぶことも形態によっては有効だと思います。
どうしても受け入れてもらえない場合は、歯磨き用のおやつやサプリメントなどを用いて口腔内環境を維持することに努めましょう。

定期的な専門家によるケアの重要性

今の犬の状態を把握するためにかかりつけの獣医師に診察を受けることは大事です。
歯の問題は外からみて明らかな病変があればわかりやすいのですが、歯の根元など隠れた場所の炎症は気がつきにくいことがあります。場合によってはレントゲンなどで骨や歯の状態をしっかりと観察しないと病変に気がつけないこともあります。

日常的にはトリミングショップやペットショップで助言を得ることも助けになります。
歯周病も早期発見早期治療が大原則なために、おかしいなと疑問に思うことがあったら、できる限り早くかかりつけの動物病院に相談してください。

残念ながらすでに歯周病になってしまっていた場合は、動物病院でしっかりとした治療を受けていただかなければいけません。

その後の歯磨きなどのケアで状況回復が可能な場合、投薬などで対応が可能な場合、麻酔科での口腔内処置が必要な場合、それぞれの場合でさまざまな方法を組み合わせて適切な治療をする必要があるために、実際にしっかりと診てもらえるかかりつけの動物病院の獣医師ときちんと話し合って治療方針を決めていきましょう。

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麻酔下での歯科処置への不安について

麻酔下での歯科処置への不安について

「麻酔」と聞くと、非常に不安になる飼い主さんも少なくないことでしょう。獣医師も、不必要な麻酔をかけたいと考えている人間はいません。しかし、状況を回復させるために必要なことであれば、きちんとした事前の検査、麻酔の準備をおこなうことで安全に処置ができるように最大限の努力をします。単純に10歳以上だと麻酔がかけられないとかそういうことはありません。
その子その子にあった治療方針がありますので、自分の犬を診てくれるかかりつけの動物病院の獣医師とよく話し合ってください。

場合によっては歯科を専門にしている獣医師もいるので、セカンドオピニオンを受けることも選択肢として存在します。きちんと獣医師と話し合ってください。

具体的な治療方法は多岐にわたります、その子の症状や状態によって変化します。今は犬の歯科も進んできて、以前は抜くことしか選択肢がなかったような場所でも温存する治療方法も出てきています。
しかし、時間がかかったり費用がかかったり、必ずしも歯を残すことが正解ではないこともあります。また設備などによってもおこなえることに差が出てきますので、そのあたりもかかりつけの動物病院とよく話し合ってみてください。

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無麻酔歯石除去の危険性について

無麻酔歯石除去というものがあります。麻酔が危険だからと歯垢や歯石を器具で除去をしてくれるという処置ですが、多くの獣医師、日本小動物歯科研究会、アメリカの歯科学会なども無麻酔の歯石除去は危険だと警鐘を鳴らしています。

一見歯石がなくなって綺麗になったような歯は、病気の原因である歯と歯肉の隙間に存在するプラークは残され、病気はそのまま進行します。

また、痛みや恐怖によって、犬がその後の歯科ケアを受け入れてくれなくなるリスクがあり、ときに顎の骨折や出血に対応できずに恐ろしいことになるケースも散見されています。
なにより、動物に危害を加える可能性のある行為をおこなって費用をいただくことは、法律によって獣医師と愛玩動物看護師にしか認められていないため、医療行為ではなく美容行為として実施することは違法行為といえるでしょう。

動物に恐怖と痛みとさまざまなリスクを与えるにもかかわらず病気の改善も進行をおさえることもない美容行為には整合性があるとはいえないでしょう。最低限、何か起きた場合に適切な対応ができる設備で獣医師がおこなうのであれば、無麻酔歯石除去をおこなうことはできるかもしれませんが、私自身は賛成できません。

ぜひ、ご自身が歯医者で歯石取りをやってみることを想像してみてください。これから歯石取りをやるとわかっていても怖いし、プロである歯科医がやっても痛いものです。動物であればなおさら、歯石取りを理解してその施術を受けるわけではありませんから、どれほどの恐怖の中我慢しておこなわれるのか、想像できるのではないでしょうか。

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まとめ

歯周病は歯だけの問題ではなく全身の問題を引き起こすことがあります。高齢になってから問題になることが多く、治療に大がかりな手術を必要とすることも少なくありません。

予防するためには毎日のケアが肝要です。犬との触れ合いの習慣のひとつとして歯磨き、口腔内ケアを取り入れることは犬の健康にとって非常に有益です。
定期的な検診で早期発見早期治療をおこなうことが歯周病にとって、もっとも有効な手段です。
おかしいなと思ったらかかりつけの動物病院に相談してください。

東 一平

獣医師"東先生"
アドバイス

歯磨きのトレーニング

まずは顔周りに触れることに慣れてもらいましょう。歯磨きを楽しいことの一貫として受け入れてもらうことが大事です。
次に指を口の中に入れて歯に触れることに慣れてもらいましょう。嫌がったら無理をせずにゆっくりやっていくこと。
次に指に歯みがきシートやタオルを巻いて歯を拭いてみましょう。濡らしたり、歯磨き用のジェルなどを使ったりすると効果があがります。
歯ブラシを見せて、かませてならしていきましょう。前後にご褒美を与えて歯磨きの時間を楽しいものにする工夫もしてみましょう。歯ブラシで歯を磨けるようになったらゴールです。可能なら歯の内側も挑戦していってみましょう。
嫌なことにせずに毎日続けていくことがなにより大事です。
どこまで進めるかは個人差がありますが、無理のない範囲でやっていくことが大事です。

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ライター情報

獣医師あずま一平いっぺい

東 一平
所属
株式会社 アイエス 代表取締役、アイエス動物病院 院長
経歴
1978年 千葉県に生まれる
1997年 麻布大学獣医学部獣医学科卒業
2003年 同大学卒業
2003年~2004年 アイエス動物病院に勤務
2004年~2005年 東京都内の動物病院に勤務
2005年 千葉県市川市のアイエス動物病院の院長に就任
現在もアイエス動物病院院長として日々診療にあたりながら、YouTubeやX(旧Twitter)、ブログなどで情報発信を続けています。
所属学会
日本小動物歯科研究会、日本獣医皮膚科学会、比較眼科学会、日本獣医麻酔外科学会所属

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  • 税制上・社会保険制度の取扱いは、このページの掲載開始日時点の税制・社会保険制度にもとづくもので、全ての情報を網羅するものではありません。将来的に税制の変更により計算方法・税率などが、また、社会保険制度が変わる場合もありますのでご注意ください。なお、個別の税務取扱いについては所轄の税務署または税理士などに、社会保険制度の個別の取扱いについては年金事務所または社会保険労務士などにご確認のうえ、ご自身の責任においてご判断ください。

(掲載開始日:2023年12月26日)
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