自転車保険とは?補償内容や加入の必要性、保険選びのポイントを解説

昨今、全国の自治体で自転車損害賠償責任保険等(以下、自転車保険といいます)への加入義務化が進められています。これをきっかけに加入する自転車保険を探している方もいるのではないでしょうか?
しかし、自転車保険にはさまざまな商品があるため、どの保険に加入すればいいのか悩んでしまうかもしれません。この記事では、自転車保険の加入を検討している方に向けて、自転車保険の補償内容や保険選びのポイントなどについてわかりやすく解説します。
自転車保険とは?

自転車の運転中に事故が起きると、ケガをはじめとしたさまざまなリスクが生じます。
自転車を取り巻く事故のリスクは、大きく分けると「自分がケガをする」「他人にケガをさせる」「財物を壊す(損害を与える)」の3つです。
こうしたリスクに備えるための保険が「自転車保険」です。一般的な自転車保険は傷害保険と個人賠償責任保険がセットになっており、自転車の事故によって生じたケガや損害賠償責任に備えられます。傷害保険、個人賠償責任保険で受けられる補償は次のとおりです。
自転車事故に備えるための各保険の補償対象
保険の種類 | 事故の相手 | ご自身 | |
---|---|---|---|
生命・身体 | 財産(もの) | 生命・身体 | |
個人賠償責任保険 | ○ | ○ | × |
傷害保険 | × | × | ○ |
ここでは、傷害保険と個人賠償責任保険の詳細や活用シーンを解説します。
ご自身のケガに備えられる「傷害保険」
傷害保険は、ご自身が事故で負ったケガの治療費などが補償される保険です。具体的な補償内容の例としては、以下の5つがあげられます。
【傷害保険の補償内容】
- 死亡保険金
- 入院保険金
- 手術保険金
- 通院保険金
- 後遺障害保険金
また、補償範囲は保険によって異なります。
たとえば、「自転車で転倒してケガをした」「自転車同士でぶつかってケガをした」など自転車事故のみを補償対象とするプランの保険がある一方で、「自宅で転んでケガをした」「スポーツ中にケガをした」などの自転車事故以外の日常生活のケガも対象とするプランを設けている保険もあります。
事故を起こした際の賠償責任に備えられる「個人賠償責任保険」
個人賠償責任保険は、相手にケガを負わせた場合の治療費や相手のものを壊してしまった場合の修理費などの損害賠償責任に備えられる保険です。事故内容によっては、個人では支払いが難しい多額の賠償金を請求される可能性があります。
しかし、個人賠償責任保険に加入しておけば損害賠償責任を負った際に保険金が支払われるため、高額な賠償金に備えられます。
なお、一般的な個人賠償責任保険は、自転車事故だけでなく日常生活で生じた事故も補償対象です。自転車を運転中に他人にケガをさせてしまったとき、買いものに行った際に不注意から商品を壊してしまったときなど、幅広いシーンで役立ちます。
自転車保険に加入する必要はある?

前述のとおり、自転車を取り巻くリスクについてはさまざまなものがあります。自転車保険ではそのさまざまなリスクに備えることができますが、やはり自転車保険には加入したほうがよいのでしょうか?
加入の必要性を考える際に、以下の2点について理解しておくとよいでしょう。
【自転車保険の必要性を考える際のポイント】
- 自治体によっては自転車保険への加入を義務化している
- 多額の賠償金を支払う可能性に備えられる
では、それぞれについてみていきましょう。
自治体によっては自転車保険への加入を義務化している
現在、全国の自治体では自転車保険の加入義務化が進んでいます。
2015年10月、自転車保険への加入を義務付ける条例が兵庫県で初めて導入されました。その後、自転車保険への加入の義務化を導入する流れが全国的に広まり、現在では以下多くの自治体が加入を義務、あるいは努力義務とする条例を制定しています。
自転車保険の加入を義務または努力義務としている自治体
条例の制定状況 | 都道府県 |
---|---|
義務 | (34都府県)宮城県、秋田県、山形県、福島県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、新潟県、石川県、福井県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、広島県、岡山県、山口県、香川県、愛媛県、福岡県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県 |
努力義務 | (10道県)北海道、青森県、岩手県、茨城県、富山県、和歌山県、鳥取県、徳島県、高知県、佐賀県 |
(2024年10月時点)
出典:国土交通省「自転車損害賠償責任保険等への加入促進について」
2024年10月時点で自転車保険の加入が義務付けられていないのは、3県(島根県、長崎県、沖縄県)のみです。お住まいの自治体が自転車保険への加入を義務化している場合は、保険に加入しなければ条例違反になるため注意しましょう。未加入者への罰則はとくに設けられていないケースが多いものの、自転車保険はご自身を守ることにもつながるものであり、条例の有無にかかわらず加入しておくことをおすすめします。
なお、自転車保険への加入が義務化について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
多額の賠償金を支払う可能性に備えられる
ご自身が運転する自転車で事故を起こし、他人をケガさせてしまったりした場合、事故によっては、高額の損害賠償金が発生する可能性もあります。
以下は自転車事故によって多額の賠償金が請求された事例です。
自転車事故で高額な損害賠償を命じられた事例
判決認容額※ | 事故の概要 |
---|---|
9,521万円 | 男子小学生(11歳)が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路において歩行中の女性(62歳)と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折などの傷害を負い、意識が戻らない状態となった。(神戸地方裁判所、2013年7月4日判決) |
9,330万円 | 男子高校生が夜間、イヤホンで音楽を聞きながら無灯火で自転車を運転中に、パトカーの追跡を受けて逃走し、職務質問中の警察官(25歳)と衝突。警察官は、頭蓋骨骨折などで約2ヵ月後に死亡した。(高松高等裁判所、2020年7月22日判決) |
9,266万円 | 男子高校生が昼間、自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに横断し、対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(24歳)と衝突。男性会社員に重大な障害(言語機能の喪失など)がのこった。(東京地方裁判所、2008年6月5日判決) |
6,779万円 | 男性が夕方、ペットボトルを片手に、スピードを落とさずに下り坂を走行し交差点に進入、横断歩道を横断中の女性(38歳)と衝突。女性は脳挫傷などで3日後に死亡した。(東京地方裁判所、2003年9月30日判決) |
5,438万円 | 男性が昼間、信号表示を無視して高速度で交差点に進入、青信号で横断歩道を横断中の女性(55歳)と衝突。女性は頭蓋内損傷などで11日後に死亡した。(東京地方裁判所、2007年4月11日判決) |
※判決認容額は、上記裁判の判決文で加害者が支払いを命じられた金額です(概算額)。
自転車保険に未加入の場合に万が一、自転車事故を起こしてしまうと、ご自身のケガの治療だけでなく、他人へケガをさせてしまった場合の損害賠償金も発生する可能性があります。前述のような高額の損害賠償に備えるためにも、自転車保険に加入しておくことが大切です。
なお、自転車保険によっては、支払う賠償金について話し合う示談交渉をサポートするサービスも付帯しています。示談交渉のサポートサービスが付帯した自転車保険なら、交渉に不慣れな方同士でもスムーズに示談交渉を進められます。
自転車保険選びの際にチェックしたいポイント

次に、具体的に自転車保険を選ぶ際に、あらかじめチェックしたいポイントについてご紹介します。
【自転車保険選びの際にチェックしたいポイント】
- 自身がケガを負った場合にどんな補償が受けられるのか
- 「個人型プラン」と「家族型プラン」のどちらを選ぶか
- 自動車保険の「自転車特約」などで補償が重複していないか
- 自転車の盗難に対応しているか
- 保険料が負担にならないか
- 個人賠償責任保険の補償額はどれくらいか
- 付帯サービスが付いているか
自身がケガを負った場合にどんな補償が受けられるのか
自転車事故ではご自身がケガをする可能性もあるため、傷害保険の補償内容を確認しておくことも重要です。
ケガを負った際にいくら補償されるのか、補償の条件などは各商品で異なるため、ご自身のケガにどこまで備えたいのか、求める内容によって選ぶべき商品が変わります。補償内容は必ず事前に確認し、ご自身が安心できる商品を選んでください。
「個人型プラン」と「家族型プラン」のどちらを選ぶか
自転車保険には、一般的に本人のみを補償する「個人型」のほかに、本人と家族を補償する「家族型」の商品があります。
「個人型」の場合には、ケガの補償の対象となる方は本人のみですが、「家族型」の自転車保険は、家族のうちひとりでも加入すれば家族全員がケガの補償の対象となります。そのため、自転車を利用する家族が複数いる方や、家族全体の保険料の負担をおさえたい方におすすめです。なお、一般的な家族型の自転車保険では、以下が補償対象者の範囲です。
【一般的な家族型自転車保険の補償対象者の範囲】
- 本人
- 本人の配偶者
- 本人またはその配偶者の同居の親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)
- 本人またはその配偶者の別居の未婚の子
なお、ケガ以外の補償については、「個人型」でも個人賠償責任補償は本人とその家族も補償の対象となることが一般的です。
家族型自転車保険の補償内容や加入時の注意点は、以下の記事で紹介していますので参考にしてください。
自動車保険の「自転車特約」などで補償が重複していないか
現在、自動車保険に契約しているという場合には、「自転車特約」も付帯されているケースがあります。その場合には、新しく自転車保険に加入すると補償内容が重複してしまう可能性があります。「そもそも自動車保険に自転車特約が付帯されているのかかわからない」といった方はとくに注意が必要です。補償内容を把握していない状態で保険に新しく加入すると、補償の重複に気づかない可能性があります。
「重複すると補償内容がより増えて良いのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、複数の保険を契約していても、損害賠償責任を負った際は実際の損害額を超えて保険金を受け取ることはできません。
また、自動車保険だけでなく、個人賠償責任補償やケガをした場合の傷害補償は、自転車保険以外の保険に特約として付帯しているケースもあります。すでに自動車の損害賠償責任保険、あるいは日常生活のケガを補償する保険に加入している場合などは、補償内容を見直してみましょう。
自転車の盗難に対応しているか
自転車保険に加入する際は、自転車の盗難や盗難による損壊などの被害に遭ったときに補償されるかについても確認しましょう。自転車保険が盗難被害へ対応しているかどうかは商品によって異なり、盗難に関わる損害を補償するプランを設けている保険もあれば補償の対象外としている保険もあります。
なお、盗難に関わる損害への補償を受けるには「警察署での盗難被害届の受理が必要」などの条件が設けられている場合もあるため、事前によく確認しましょう。
保険料が負担にならないか
自転車保険の保険料は、月々数百円から加入できる商品もあります。ただし、補償の対象が本人のみか家族も含むのか、個人賠償責任の上限額がいくらなのかなど、補償内容によって支払う保険料は異なります。
保険料の支払い額が経済的な負担にならないかどうか、加入前にチェックしておきましょう。
個人賠償責任保険の補償額はどれくらいか
自転車事故による高額な賠償金請求に備えられるよう、自転車保険選びの際は個人賠償責任保険の補償額を重視する方もいるでしょう。個人賠償責任保険の補償額は、保険会社やプランによって異なります。高額な損害賠償請求が発生する可能性も前提に、ご自身が適切だと思える補償額が設定されている商品を選びましょう。
補償額が適切かどうか判断に悩む場合は、過去の事例を参考にするのがおすすめです。先述したように、過去に高額なそんがい賠償償金の支払いが命じられた事例もあります。この事例をもとに必要な補償額を考えるのなら、1億円という額がひとつの目安となるでしょう。
また、ロードバイクなど速度の出やすい自転車に乗っている場合は、事故を起こした際の被害も大きくなる可能性が考えられます。ご自身の乗っている自転車のタイプにあわせて補償額も検討するとよいでしょう。
なお、補償額は商品によって異なりますが、数千万円、1億円、2億円、3億円、無制限などに設定されているケースがあります。補償額が上がると保険料も上がるため、保険料とのバランスもみながら決めましょう。
自転車保険の補償内容を選ぶ際には、比較サイトを利用すると便利です。条件を指定して複数の自動車保険を一覧でき、比較しながら選ぶことができるため、ご自身の希望にあう商品を見つけやすくなります。
付帯サービスが付いているか
自転車保険の商品によっては、基本的な補償以外の付帯サービスを利用できる場合もあります。以下は自転車保険の付帯サービスの一例です。
自転車保険のおもな特約・付帯サービス
特約・付帯サービス | 概要 |
---|---|
示談交渉 | 自転車事故で損害賠償請求をされたときに保険会社が被保険者の代わりに示談交渉してくれる |
自転車のロードサービス | 自転車にトラブルが起きた際、搬送や修理をおこなってくれる |
弁護士費用 | 被保険者が被害を受けた場合の弁護士費用や法律相談費用を補償する |
自転車関連のものから日常生活で役立つものまで、付帯サービスの内容は保険によってさまざまです。基本的な補償内容とあわせて加入前に確認しましょう。
自転車保険はご自身のニーズにあったものを選ぼう

自転車保険は、ご自身のニーズにあったものを選ぶことが大切です。しかし、数多くある自転車保険から最適なものを選ぶことはそれほど簡単ではありません。
自転車保険選びには、さまざまな保険を一覧で見比べられる保険の比較サイトの利用がおすすめです。条件を入力するだけで、ご自身のニーズに合う複数の自転車保険が抽出され、それらを一覧できます。保険料や補償内容などを比較しながら選ぶことができるので、効率的に見つけることができるでしょう。自動車保険の見直しの際にも役立ちます。
まとめ
自転車事故によって生じたご自身のケガの治療費や損害賠償責任に備えられる自転車保険は、自転車に乗る機会がある方にとっては必要性の高い保険です。万が一事故を起こして高額な損害賠償金が発生した場合にも、自転車保険の補償が経済的な負担をサポートしてくれます。
また、自治体によっては自転車保険への加入を義務化する条例を制定しています。保険の加入が義務付けられている地域に引っ越す場合は、早めに自転車保険に加入しておきましょう。義務化の条例がない地域に住んでいる場合も、今後義務化される可能性に備えて自転車保険に加入すると安心です。
なお、自転車保険によって補償内容や保険料は異なります。ご自身の家族構成や状況にあわせた自転車保険を選びましょう。

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監修者情報
ファイナンシャルプランナー新井智美

ファイナンシャルプランナー。2006年11月 卓越した専門性が求められる世界共通水準のFP資格であるCFP認定※を受けると同時に、国家資格であるファイナンシャル・プランニング技能士1級を取得。2017年10月 独立。主に個人を相手にお金に関する相談および提案設計業務を行う。個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン住宅購入のアドバイス)の他、資産運用など上記内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行う傍ら、執筆・監修業も手掛ける。これまでの執筆・監修実績は3,000本以上。
- 資格情報
- 日本FP協会会員(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
※CFP®、CERTIFIED FINANCIAL PLANNER®、およびサーティファイド ファイナンシャル プランナー®は、米国外においてはFinancial Planning Standards Board Ltd.(FPSB)の登録商標で、FPSBとのライセンス契約の下に、日本国内においてはNPO法人日本FP協会が商標の使用を認めています。
- ※このページの内容は、一般的な情報を掲載したものであり、個別の保険商品の補償/保障内容とは関係がありません。ご契約中の保険商品の補償/保障内容につきましては、ご契約中の保険会社にお問い合わせください。
- ※税制上・社会保険制度の取扱いは、このページの掲載開始日時点の税制・社会保険制度にもとづくもので、全ての情報を網羅するものではありません。将来的に税制の変更により計算方法・税率などが、また、社会保険制度が変わる場合もありますのでご注意ください。なお、個別の税務取扱いについては所轄の税務署または税理士などに、社会保険制度の個別の取扱いについては年金事務所または社会保険労務士などにご確認のうえ、ご自身の責任においてご判断ください。
(掲載開始日:2025年2月18日)
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