自転車保険の加入義務化とは?その理由や対象の自治体、罰則などを解説

2015年に兵庫県で自転車損害賠償責任保険等(以下、自転車保険といいます)への加入が義務化されて以降、多くの自治体で義務化・努力義務化の動きが進んでいます。義務化されている自治体で自転車を利用する方は全員、自転車保険もしくは個人賠償責任保険に加入しなければなりません。
この記事では、自転車保険への加入が義務化されている自治体や対象者、いつから、またどのような背景で義務化されたのか、加入しなかった場合罰則があるのかについて解説します。
ヘルメット着用の義務化や、自転車保険に加入する際の注意点もあわせて説明するため、自転車を利用する方はぜひ参考にしてください。
自転車保険の加入義務化とは

自転車保険への加入を義務とする条例は、2015年10月に兵庫県が初めて導入しました。それ以降、多くの自治体が自転車保険への加入を義務または努力義務(加入しようと努めなければならないこと)とする条例を制定しています。
たとえば、東京都では2020年4月1日に自転車保険への加入が義務化されました。義務化前(2019年)は46.6%だった東京都の自転車保険加入率※1が、義務化後(2024年2月)では63.2%に増加しています※2。
なお、全国で見ると、自転車保険の加入率は2020年度の実績で59.7%であり、約6割が自転車による事故に備えているという結果でした。国土交通省は2025年度までに75%、将来的には100%の加入率を目指しています※3。
自転車保険への加入が義務化されている理由
自転車保険の加入義務化が進んでいるおもな理由は、2つあります。
【自動車保険加入義務化の理由】
- 加害者の経済的な負担を軽減するため
- 被害者を保護するため
加害者が自転車保険に未加入の場合、加害者はご自身の資産から賠償金を支払わなければなりません。資産がなければ高額な賠償金額を支払うことができず、被害者が十分な補償を受けられない可能性があります。
また、日本の自転車保有台数は約2人に1台であり、重要な交通手段のひとつです。通学や通勤、買いものなどさまざまな目的で利用されており、近年はコロナ禍で自転車通勤やシェアサイクルの利用ニーズも高まっています。
一方、警視庁によると、自転車関連事故件数は2020年が6万7,673件、2023年が7万2,339件であり、ここ数年で増加傾向です。また、交通事故に占める自転車事故の割合も上昇傾向にあります。
さらに、自転車事故によって高額な損害賠償を命じられる事例も起きています。
自転車事故で高額な損害賠償を命じられた事例
判決認容額※ | 事故の概要 |
---|---|
9,521万円 | 男子小学生(11歳)が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路において歩行中の女性(62歳)と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折などの傷害を負い、意識が戻らない状態となった。(神戸地方裁判所、2013年7月4日判決) |
9,330万円 | 男子高校生が夜間、イヤホンで音楽を聞きながら無灯火で自転車を運転中に、パトカーの追跡を受けて逃走し、職務質問中の警察官(25歳)と衝突。警察官は、頭蓋骨骨折などで約2ヵ月後に死亡した。(高松高等裁判所、2020年7月22日判決) |
9,266万円 | 男子高校生が昼間、自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに横断し、対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(24歳)と衝突。男性会社員に重大な障害(言語機能の喪失など)がのこった。(東京地方裁判所、2008年6月5日判決) |
6,779万円 | 男性が夕方、ペットボトルを片手に、スピードを落とさずに下り坂を走行し交差点に進入、横断歩道を横断中の女性(38歳)と衝突。女性は脳挫傷などで3日後に死亡した。(東京地方裁判所、2003年9月30日判決) |
5,438万円 | 男性が昼間、信号表示を無視して高速度で交差点に進入、青信号で横断歩道を横断中の女性(55歳)と衝突。女性は頭蓋内損傷などで11日後に死亡した。(東京地方裁判所、2007年4月11日判決) |
※判決認容額は、上記裁判の判決文で加害者が支払いを命じられた金額です(概算額)。
自転車保険の加入義務化が進められているのは、このような自転車事故のリスクに備えて加害者・被害者双方を守るためです。
自転車保険の加入義務を守らなかったときの罰則はある?
多くの自治体で自転車保険の加入が義務化されていますが、守らなかったときの罰則は現状設けられていません。なぜなら、まずは自転車を利用する方に向けて、自転車保険への加入促進をおこなうことが先決と考えられているためです。
そのほかにも、自転車保険は自転車の利用者が加入していなくても家族が契約していれば補償される保険会社もあり、自転車保険に加入していることを証明するのが難しいことも理由のひとつです。また、罰則の対象を確認するための車体特定が難しいことも理由としてあげられます。
しかし、自転車に乗っている以上、自転車事故の加害者になってしまうリスクは誰にでもあります。罰則がないからといって他人事でいると、高額な賠償を命じられる事故を起こした際に賠償金を支払えなくなる可能性もあるため、被害者だけでなくご自身を守るためにも自転車保険に加入することが大切です。
自転車保険への加入が義務化されている自治体一覧

自転車保険の加入を義務または努力義務としている自治体は、以下のとおりです。
自転車保険の加入を義務または努力義務としている自治体
条例の制定状況 | 都道府県 |
---|---|
義務 | (34都府県)宮城県、秋田県、山形県、福島県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、新潟県、石川県、福井県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、広島県、岡山県、山口県、香川県、愛媛県、福岡県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県 |
努力義務 | (10道県)北海道、青森県、岩手県、茨城県、富山県、和歌山県、鳥取県、徳島県、高知県、佐賀県 |
(2024年10月時点)
出典:国土交通省「自転車損害賠償責任保険等への加入促進について」
2024年10月時点で自転車保険の加入が義務付けられていないのは、3県(島根県、長崎県、沖縄県)のみです。岡山県・山口県では2024年10月から自転車保険の加入を義務化しています。
さらに、県では義務付けられていない、または努力義務ではありますが、独自で条例を設けている市もあります。
独自で自転車保険の加入条例を設けている市
市 | 義務/努力義務 | 施行日 |
---|---|---|
松江市(島根県) | 努力義務 | 2014年8月1日 |
笠間市(茨城県) | 義務 | 2019年10月1日 |
(2024年10月時点)
自転車保険加入義務化の対象者

自転車保険への加入が義務付けられているのは、その自治体の住民ではなく「自転車の利用者」です。
そのため、義務化されている地域に住んでいなくても、対象の地域で自転車を利用する際、加入が義務付けられる場合があります。普段から通学・通勤などで自転車を利用する方や、義務化されている観光地などでレンタサイクルを利用する方も対象です。
また、自転車の利用者が未成年の場合は保護者が義務対象者となります。
なお、自転車保険には本人のみを補償対象とするものだけでなく、家族全員を対象とするものもあります。したがって、自転車を利用する一人ひとりに対して自転車保険への加入手続きが必須なわけではありません。
自転車利用者のヘルメット着用も義務化されている?

道路交通法の改正によって、2023年4月1日から自転車利用者のヘルメット着用が法律で努力義務化されました。そのため自転車に乗る際は、ヘルメットをかぶるよう努める義務があります。また、保護者は児童や幼児が自転車に乗る際、ヘルメットをかぶらせるよう努めなければなりません。
ヘルメットの着用が努力義務化された理由として、過去5年間で自転車乗用中の事故で亡くなった方のうち、頭部に致命傷を負った方は半数以上にのぼっていることがあげられます(2019年~2023年合計)。
また、ヘルメットを着用していない場合の致死率は着用している場合の約1.9倍であることから、ヘルメットの着用によって守れる命があることがわかります。
事故による被害を軽減するためにも、安全性を示すSGマークなどが付いたヘルメットを選び、正しく着用しましょう。なお、SGマークとは一般財団法人 製品安全協会が定めた基準に適合していると認証された場合に表示できるマークのことで、「Safe Goods(安全な製品)」を意味します。
また、2023年7月1日からは、電動キックボードなどの特定小型原動機付自転車の利用者も乗車用ヘルメットの着用が努力義務化されました。
自転車保険に加入する際のポイント

自転車保険への加入を検討しているものの、加入が義務化されている保険の種類や、自転車保険の補償内容がよくわからない方もいるのではないでしょうか。自転車保険への加入を考える際は、以下のポイントを踏まえて検討しましょう。
【自転車保険加入時のポイント】
- すでに加入している保険の補償と重複しないかを確認する
- 家族全員を補償対象とする自転車保険もある
- ご自身のケガへの補償が必要か検討する
- 年齢制限が設けられている場合がある
すでに加入している保険の補償と重複しないかを確認する
各自治体が条例で義務として定めているのは、個人賠償責任補償が付帯している保険(他人の生命または身体の損害などを賠償する保険)への加入です。
個人賠償責任補償は、以下のようにさまざまな保険契約に付帯できるため、必ずしも「自転車保険」の名称が付いた保険に加入しなければならないわけではありません。
【個人賠償責任補償が付帯されているおもな保険や共済契約】
- 自転車保険
- 自動車保険の特約
- 火災保険の特約
- 傷害保険の特約
- クレジットカードの付帯保険
- 団体保険
- 共済
- TSマーク付帯保険(点検整備した自転車の車体に付帯する保険)
損害保険では、実際の損害額に応じて保険金が支払われる実損払いが基本です。そのため、重複して加入していても実際に生じた損害額までしか保険金は支払われません。必要以上に保険料を支払うことがないよう、加入している保険契約の補償内容を確認しましょう。
個人賠償責任補償はさまざまな保険や共済契約に付帯できますが、補償額は保険や共済契約の内容によって異なります。補償額が「1億円まで」や「無制限」の保険がある一方で、TSマーク付帯保険の青色TSマークは個人賠償責任補償の限度額が1,000万円と低めです。
また、TSマーク付帯保険には3種類(緑色・赤色・青色)のTSマークがあり、それぞれ補償内容が異なります。そのため、自転車保険に加入する際は、どのくらいの補償が必要なのかを事前にしっかり検討することが大切です。
なお、補償金額に関しては条例による定めはありません。しかし、過去に自転車事故で9,521万円の賠償が命じられた事例もあるため、もしもの備えとしてどの程度の補償が必要なのかと考えたとき、「1億円」はひとつの目安とすることができるでしょう。
付帯サービスを確認する
自転車保険を選ぶ際には、付帯サービスなども確認するとよいでしょう。「示談交渉サービス」や「自転車のロードサービス」など付帯できる自転車保険もあります。付帯できる保険を選ぶとより安心です。
示談交渉サービスや自転車のロードサービスの内容
示談交渉サービス | 自転車事故で損害賠償請求をされたときに保険会社が被保険者の代わりに示談交渉してくれるサービス |
自転車のロードサービス | 保険の対象となる自転車が、事故や故障で自力走行ができなくなった場合、専門業者が現場へ駆けつけ、自転車販売店や自宅など、希望する場所まで自転車を無料搬送してくれるサービス |
家族全員を補償対象とする自転車保険もある
自転車保険は、契約者本人だけでなく、配偶者や家族も補償対象となる場合があります。補償対象の範囲は各保険会社やプランによってさまざまですが、被保険者の範囲を契約者本人を補償対象とする「本人型」や家族も補償対象とする「家族型」などを選ぶことができます。
家族全員を補償対象とする自転車保険の場合には、家族一人ひとりが加入手続きをする必要はありません。保険の商品によっては同居している親族や、別居している未婚の子もひとつの保険で補償されることがあります。
また、家族でまとめて保険に加入すると、家族一人ひとりで加入する場合と比べて保険料がおさえられるケースもあります。なお、家族型の保険は補償対象とする「家族」の範囲が保険会社によって異なる場合があるため、加入前に必ず確認しましょう。
ご自身のケガへの補償が必要か検討する
自転車保険の加入が義務化されている各自治体の条例では、事故相手への損害賠償の補償が必要とされており、ご自身のケガの補償に関する定めはありませんが、必要に応じて加入を検討しましょう。
なお、自転車事故によって生じた事故相手への損害賠償は「個人賠償責任保険」、ご自身のケガへの補償は「傷害保険」となり、それぞれ補償の対象が異なります。
自転車事故に備えるための各保険の補償対象
保険の種類 | 事故の相手 | ご自身 | |
---|---|---|---|
生命・身体 | 財産(もの) | 生命・身体 | |
個人賠償責任保険 | ○ | ○ | × |
傷害保険 | × | × | ○ |
傷害保険では、交通事故でご自身が死亡またはケガをした際、おもに以下のような保険金が支払われます。
【傷害保険で補償される保険金の一例】
- 死亡保険金
- 後遺障害保険金
- 入院保険金
- 手術保険金
- 通院保険金
「ご自身のケガ」に対する傷害補償は、自転車利用中に起きた事故などに限定されているものと、日常の事故にまで補償範囲が拡大されているものがあります。
商品によっては、自転車の走行中に転倒してケガをしたなどの単独事故も補償される場合があるため、補償内容・範囲をしっかり確認し、すでに加入している保険の補償範囲と重複していないかなどを踏まえて検討しましょう。
年齢制限が設けられている場合がある
自転車保険の多くは年齢制限を設けており、満70歳以上などの高齢になると新規申込みができない場合があります。ただし、自動車保険や火災保険、傷害保険の特約として付帯できるものの多くは、年齢制限を設けていません。また、家族型の自転車保険や特約で補償される親族には年齢制限が設けられていないのが一般的です。
さらに、「TSマーク付帯保険」は自転車の車体に付帯される保険であるため、年齢を問わず加入できます。
まとめ
自転車保険の加入を義務化する自治体は増加する傾向にあります。ご自身の居住地でなくても義務化されている自治体が管理する地域で自転車を利用する方は、自転車保険に加入することが必要となります。
万が一、自転車事故を起こしてしまうと、相手方の身体や生命を害してしまうと同時に、高額な損害賠償を命じられる可能性もあります。自転車保険の加入が義務化されているかどうかにかかわらず、自転車保険の加入はぜひ検討しましょう。
なお、各自治体が条例で義務として定めているのは個人賠償責任補償が付帯した保険であるため、必ずしも「自転車保険」という名称の保険に加入しなければならないわけではありません。すでに自動車保険や火災保険などほかの保険で個人賠償責任保険に加入していることもあるため、ご自身が加入している保険を見直し補償内容を確認するとよいでしょう。
自転車保険の補償内容や保険料は、保険会社によってさまざまです。自転車保険選びに迷ったときは、保険の比較サイトを活用するのもおすすめです。比較サイトでは、複数の自転車保険の補償金額や範囲、保険料を一覧で比較・検討できるため、よりご自身の希望に合った自転車保険が選びやすく、効率的に探すことができます。

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監修者情報
ファイナンシャルプランナー新井智美

ファイナンシャルプランナー。2006年11月 卓越した専門性が求められる世界共通水準のFP資格であるCFP認定※を受けると同時に、国家資格であるファイナンシャル・プランニング技能士1級を取得。2017年10月 独立。主に個人を相手にお金に関する相談および提案設計業務を行う。個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン住宅購入のアドバイス)の他、資産運用など上記内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行う傍ら、執筆・監修業も手掛ける。これまでの執筆・監修実績は3,000本以上。
- 資格情報
- 日本FP協会会員(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
※CFP®、CERTIFIED FINANCIAL PLANNER®、およびサーティファイド ファイナンシャル プランナー®は、米国外においてはFinancial Planning Standards Board Ltd.(FPSB)の登録商標で、FPSBとのライセンス契約の下に、日本国内においてはNPO法人日本FP協会が商標の使用を認めています。
- ※このページの内容は、一般的な情報を掲載したものであり、個別の保険商品の補償/保障内容とは関係がありません。ご契約中の保険商品の補償/保障内容につきましては、ご契約中の保険会社にお問い合わせください。
- ※税制上・社会保険制度の取扱いは、このページの掲載開始日時点の税制・社会保険制度にもとづくもので、全ての情報を網羅するものではありません。将来的に税制の変更により計算方法・税率などが、また、社会保険制度が変わる場合もありますのでご注意ください。なお、個別の税務取扱いについては所轄の税務署または税理士などに、社会保険制度の個別の取扱いについては年金事務所または社会保険労務士などにご確認のうえ、ご自身の責任においてご判断ください。
(掲載開始日:2025年2月18日)
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