専業主婦(主夫)がiDeCoに加入するメリットとは?

iDeCo(個人型確定拠出年金)の大きな特徴のひとつは、掛金が全額所得控除の対象になることです。しかし、そもそも所得のない専業主婦(主夫)は、この所得控除の恩恵を受けることができません。そのため、専業主婦(主夫)の中には、「iDeCoに加入しても意味がないのでは?」と考える方もいるかもしれません。
しかしながら、iDeCoには運用益が非課税になるといったメリットもあるため、専業主婦(主夫)でも一定の恩恵を受けることができます。また、ご自身名義の厚生年金や退職金がない専業主婦(主夫)にとって、iDeCoは老後資金を準備するための有効な手段となります。
この記事では、専業主婦(主夫)がiDeCoに加入するメリット・デメリットについて詳しく解説します。さらに、iDeCoの始め方や、専業主婦(主夫)が老後資金を備えるための方法についてもご紹介します。
専業主婦(主夫)もiDeCoに加入できる

専業主婦(主夫)の方でも、iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入することが可能です。
iDeCoとは、老後の資金づくりを目的とした私的年金制度のひとつです。加入者自身が申し込みをおこない、掛金を拠出し、運用をおこなうことで、60歳以降に掛金と運用益をもとにした老齢給付金を受け取る仕組みです。
以前は、自営業者や企業年金に加入していない方のみが対象でしたが、2017年1月から制度が拡大され、専業主婦(主夫)を含む20歳以上65歳未満のすべての方(一定の条件を満たさない方を除く)がiDeCoに加入できるようになりました。
専業主婦(主夫)のiDeCoの掛金(上限)はいくら?
iDeCoの掛金は、月々5,000円から無理なく拠出することができ、掛金額は1,000円単位で自由に設定できます。ただし、国民年金の加入区分に応じて、拠出できる掛金の上限(拠出限度額)が定められています。
専業主婦(主夫)は、国民年金の第3号被保険者(厚生年金の被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者)に該当するため、月額2万3,000円、年額27万6,000円が拠出限度額です。
なお、加入区分ごとの拠出限度額は以下のとおりです。
iDeCoの加入資格と拠出限度額

※1 企業型DCとは、企業型確定拠出年金のことをいう。
※2 DB等とは、確定給付企業年金(DB)、厚生年金基金、石炭鉱業年金基金、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合、私立学校教職員共済制度をいう。
※3 企業年金等(企業型DC、DB等)に加入している場合 月額5.5万円-事業主の拠出額 (各月の企業型DCの事業主掛金額+DB等の他制度掛金相当額)(ただし、月額2万円を上限)
※4 任意加入被保険者(国民年金に任意で加入した方:60歳以上65歳未満の方、または、20歳以上65歳未満の海外居住者の方で、国民年金の保険料の納付済期間が480月に達していない方)も含む。
専業主婦(主夫)の拠出限度額は、企業型確定拠出年金制度などの企業年金制度に加入している会社員と比べて高めに設定されています。
専業主婦(主夫)のiDeCo加入者数は年々増加
国民年金基金連合会によると、第3号被保険者の加入者数は、2024年9月時点で14万7,973人です。推移を見ると、年々増加していることがわかります。
第3号被保険者の加入者数
項目 | 加入者数 |
---|---|
2022年3月末 | 10万2,776人 |
2023年3月末 | 12万7,491人 |
2024年3月末 | 14万2,578人 |
2024年6月末 | 14万6,242人 |
2024年7月末 | 14万7,068人 |
2024年8月末 | 14万7,608人 |
2024年9月末 | 14万7,973人 |
「iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入者数等について」(国民年金基金連合会)をもとに楽天インシュアランスプランニング作成
(https://www.ideco-koushiki.jp/library/pdf/number_of_members_R0609.pdf)
専業主婦(主夫)のiDeCo加入が「無駄なのでは?」といわれる理由

iDeCoの加入を検討しているけれど「専業主婦(主夫)が加入しても意味がないのでは」と迷っている方もいるかもしれません。
専業主婦(主夫)がiDeCoに加入しても意味がないといわれる理由は、おもに以下の2つがあるでしょう。
【専業主婦がiDeCoに加入する意味がないといわれる理由】
- 所得控除のメリットを受けることができない
- 掛金が少額だと「手数料負け」する可能性がある
所得控除のメリットを受けることができない
第一に、所得控除のメリットを受けられない点が挙げられます。
iDeCoの大きなメリットのひとつは、拠出した掛金の全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となることです。
たとえば、毎月の掛金が1万円で、所得税率が20%の方の場合、税金を計算する際の所得金額が年間12万円(1万円×12ヵ月)減少します。その結果、所得税と住民税を合わせて年間3万6,000円(所得税2万4,000円、住民税1万2,000円)の税負担が軽減されます。※5
※5 住民税率(所得割)は一律10%、復興特別所得税を考慮していません。
しかし、収入のない専業主婦(主夫)は、所得税や住民税を納めていないため、iDeCoに加入しても所得控除の恩恵を受けることはできません。また、iDeCoで所得控除を受けられるのは加入者本人の所得に限られており、配偶者(夫または妻)の所得から控除することはできないしくみになっています。
そのため、専業主婦(主夫)がiDeCoへの加入を検討する際は、配偶者の収入や家計全体の状況も考慮し、夫婦で相談して決めることをおすすめします。
掛金が少額だと「手数料負け」する可能性が高くなる
もうひとつの理由は、所得控除を受けることができない専業主婦(主夫)が少額の掛金や利回りの低い商品で運用すると、手数料負け(手数料が運用益を上回ること)しやすい点です。
iDeCoは月々5,000円から積立が可能ですが、掛金が少額の場合、相対的に手数料の割合が高くなり、手数料負けが起こりやすくなります。また、iDeCoの運用商品には元本確保商品もありますが、利回りが低いため資産が増えにくく、運用益が手数料を下回る可能性があります。
そのため、専業主婦(主夫)がiDeCoに加入する際は、申込み時や運用期間中に手数料がかかる点も考慮し、適切な運用方法を選ぶことが重要です。
専業主婦(主夫)がiDeCoに加入するメリット

前述のとおり、「専業主婦(主夫)はiDeCoに加入しても意味がないのではないか」と言われることがありますが、iDeCoに加入するメリットは所得控除だけに限りません。
専業主婦(主夫)がiDeCoに加入するおもなメリットは以下のとおりです。
【専業主婦(主夫)がiDeCoに加入するメリット】
- ① ご自身名義の将来の年金額を増やせる
- ② 運用益が非課税になる
- ③ 給付を受ける際に控除が受けられる
- ④ パート・アルバイト収入があれば所得控除も受けられる
メリット① ご自身名義の将来の年金額を増やせる
老後の資金づくりができることは、専業主婦(主夫)がiDeCoに加入するメリットのひとつです。
専業主婦(主夫)はご自身名義の厚生年金や退職金がないため、老後生活に不安を感じている方もいるのではないでしょうか。しかし、iDeCoに加入して掛金を拠出すれば、原則として60歳以降に年金または一時金として受け取ることができます。
日本の公的年金は2階建て(1階が国民年金、2階が厚生年金)の構造になっており、1階部分が国民年金、2階部分が厚生年金です。専業主婦(主夫)が受け取ることができるのは1階部分の国民年金(老齢基礎年金)のみです。
しかし、iDeCoに加入していれば、国民年金に上乗せする形で老齢給付金を受け取ることが可能です。なお、国民年金(老齢基礎年金)の年金額は、満額受給できる場合でも月額6万8,000円です(2024年度)。
メリット② 運用益が非課税になる
専業主婦(主夫)は所得控除を受けられませんが、運用益が非課税となり、受け取る際にも各種控除が適用されます※6。iDeCoを利用せずに特定口座や一般口座で投資信託などを運用して得た利益には、20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税金が課税されます。たとえば、投資信託で10万円の運用益が出た場合、税金が引かれたのちに実際に受け取ることができる金額は約8万円です。
しかし、iDeCoなら運用益から税金が差し引かれることなく、全額が再投資され、元本に組み込まれて運用されるため、複利効果の向上が期待できます。なお、複利効果とは、運用益を元本に含めて再投資することで利益が増幅する効果のことです。一般的に、複利運用による効果は、早く始めて運用期間が長くなるほど大きくなります。
※6 iDeCoの積立金には、本来年1.173%の特別法人税がかかりますが、2026年3月末まで課税は停止されています(課税停止期間はこれまで延長が繰り返されています)。
メリット③ 給付を受ける際に控除が受けられる
iDeCoの老齢給付金は給付を受ける際に課税対象になりますが、控除によって税負担が軽減されるしくみです。iDeCoの老齢給付金を受け取る方法は、次の3つから選べます。
【老齢給付金を受け取る方法】
- 一時金として一括で受け取る
- 年金として受け取る
- 一時金と年金を組み合わせて受け取る
年金として受け取る場合は「公的年金等控除」、一時金で受け取る場合は「退職所得控除」の適用を受けられます。
-
公的年金等控除
-
年金として受け取った老齢給付金は「雑所得」に該当しますが、公的年金等控除の対象となります。公的年金等控除とは、税金を計算する際に、公的年金等の収入金額から差し引くことができる所得控除のことです。
雑所得=公的年金等の収入金額-公的年金等控除額
公的年金等控除額は、年齢や年金額によって異なります。iDeCoの給付金を年金として受け取る場合、公的年金と合算した金額に対して公的年金等控除が適用されます。
ただし、専業主婦(主夫)は一般的に会社員などと比べて公的年金の受給額が少ないため、受け取り時に税金がかからない可能性があります。
なお、1年間に受け取ったiDeCoの老齢給付金や公的年金の合計額が110万円(65歳未満は60万円)以下であれば、税金はかかりません。
-
退職所得控除
-
老齢給付金を一時金で受け取った場合、「退職所得」に該当し、退職所得控除を適用することができます。退職所得控除とは、退職金などを受け取った際に適用される控除のことです。
退職所得=(収入金額(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額)×1/2
退職所得控除額は、勤続年数をもとに計算されます。
退職所得控除額の計算式
勤続年数 退職所得控除額 20年以下 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) 20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年) 「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(国税庁)をもとに楽天インシュアランスプランニング作成
(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm)老齢給付金を一時金で受け取った場合、退職所得控除額は、勤続年数を「iDeCoの加入年数」に置き換えて計算します。
会社員などの場合、当年に受け取った退職金とiDeCoの給付金を合計した金額に対して退職所得控除が適用されます。
一方、専業主婦(主夫)は一般的に退職金を受け取ることがないため、iDeCoの給付金のみが対象となります。加入期間が20年以内の場合、年間40万円分の退職所得控除が適用されますが、専業主婦(主夫)がiDeCoで拠出できる掛金は年間27.6万円が上限であるため、課税されずに老齢給付金を受け取れる可能性が高いといえます。
メリット④ パート・アルバイト収入があれ所得控除を受けられる
現時点で専業主婦(主夫)の方でも、今後パートやアルバイトなどで働き、一定以上の収入を得るようになれば、専業主婦(主夫)時代に積み立てたiDeCoの資産運用を継続することができます。また、それに伴い、掛金の額だけ課税所得が減少するため、所得控除によって所得税や住民税の負担が軽減されるようになります。
なおパートとして働く場合は、年収が103万円(基礎控除48万円+給与所得控除55万円)を超えると所得税が課税されます(2024年10月現在)。
しかし、iDeCoで月に1万円を積み立てた場合、年間の掛金合計額は12万円となるため、課税対象となる年収の上限は103万円+12万円=115万円となります。このように、iDeCoの掛金次第で課税される収入の範囲を調整することが可能です。
ただし、週の勤務時間が20時間以上で、2ヵ月以上働く予定があり、かつ年収が106万円(月額8万8,000円)を超えると、パート先で社会保険(厚生年金、健康保険)への加入が必要となるケースがあります。社会保険に加入する場合は、新たに社会保険料の支払いが発生するため、収入を増やすかどうかは慎重に判断するようにしましょう。
なお、年収106万円以上のパートやアルバイトの方が社会保険の加入対象となる条件は、2022年10月までは従業員数101人以上の企業で働く方に限られていましたが、2024年10月以降は従業員数51人以上の企業に対象が拡大されています。
また、年収が130万円を超えると、以下のような影響が出るため注意が必要です。
- 配偶者の扶養から外れ、国民年金・国民健康保険への加入が必要になる(パート先などで社会保険に加入していない場合)
- 配偶者の所得控除(配偶者特別控除)が減額される
- 配偶者の勤務先で支給されている配偶者手当が受けられなくなる
-
パート収入のある主婦(主夫)が所得控除を受けるには年末調整・確定申告が必要
-
パート収入が103万円を超える主婦(主夫)がiDeCoの掛金を拠出した場合、年末調整や確定申告をすることで所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の適用を受けられます。
手続きの際に「小規模企業共済掛金払込証明書」が必要となるため、年末調整と確定申告の時期まで大切に保管しましょう。小規模企業共済掛金払込証明書は、毎年10月以降に国民年金基金連合会からハガキで送付、または電子データで発行されます。
ただし、収入のない専業主婦(主夫)は所得控除を受けられないため、iDeCoで掛金を拠出しても年末調整や確定申告の手続きは不要です。
専業主婦(主夫)がiDeCoに加入するデメリット

iDeCoは、老後の資金づくりとして活用できる手段のひとつですが、専業主婦(主夫)が加入する際、会社員や公務員、自営業者などとは違う注意点があります。
以下のデメリットを踏まえ、配偶者が拠出している掛金を増やすことやiDeCo以外に加入するなどの方法も検討しましょう。
【専業主婦(主夫)がiDeCoに加入するデメリット】
- ① 利益が手数料を下回る可能性がある
- ② 原則として60歳になるまで引き出せない
デメリット① 利益が手数料を下回る可能性がある
iDeCoに加入すると、申込み時や運用期間中(運用指図者も含む)に手数料が発生します。
前述のとおり、iDeCoは月々5,000円から積み立てが可能ですが、掛金が少額の場合、相対的に手数料の割合が高くなり、利益が生じにくくなる可能性があります。また、iDeCoの運用商品には元本確保型の商品もありますが、利回りが低いため、資産が増えにくく、運用益が手数料を下回るリスクもあります。
iDeCoの加入者が申込み時や運用期間中に負担するおもな手数料は以下のとおりです。なお、手数料は掛金や還付金などから差し引かれます。
iDeCoの手数料
手数料の種類 | 手数料 | 支払い先 | |
---|---|---|---|
加入時(1回のみ) | 加入・移換時手数料 | 2,829円 | 国民年金基金連合会 |
掛金の拠出時 | 事務手数料 | 105円/月 | 国民年金基金連合会 |
資産管理手数料 | 66円/月 | 事務委託先金融機関 | |
運営管理手数料 | 運営管理機関によって異なる | 運営管理機関 | |
掛金の還付時 | 還付手数料(その都度) | 1,048円 | 国民年金基金連合会 |
とくに専業主婦(主夫)の方は所得控除のメリットを享受できないため、掛金を少額しか拠出しない場合や、利益のあまり期待できない元本確保型商品(定期預金)で運用する場合に、手数料が利益を上回る可能性があります。
また、掛金を拠出せず運用のみおこなう期間でも、毎月手数料が発生する点には注意が必要です。
投資信託での運用はリスクを伴いますが、非課税メリットや手数料の負担を考慮すると、ある程度のリスクを取ったうえで、それに見合う利益が期待できる投資信託で運用するのが望ましいといえます。
一方で、元本確保型商品は、途中で資金を引き出せないiDeCoにおいて、一時的な資金の逃避先(現金に近い形で保有する方法)として活用するのが良いでしょう。
デメリット② 原則として60歳になるまで引き出せない
iDeCoは老後の資産形成を目的とした年金制度であるため、掛金や運用益は原則として60歳になるまで引き出すことができません。そのため、これからのライフイベントを考慮し、無理のない範囲で掛金を拠出することが重要です。
たとえば、今後マイホームの購入を予定しているなら、住宅資金を考慮して検討する必要があるでしょう。ほかにも、まだ幼い子どもがいる家庭では、子どもの成長にともなって教育資金の負担が増えることも考えられます。
掛金の拠出を休止したり再開したりすることはいつでも可能ですが、休止中も口座管理手数料などが発生する場合があるため、慎重に検討する必要があります。また、掛金の額は年に1回しか変更(増額または減額)できません。
ただし、預金のように気軽に引き出してしまう心配がないため、積立を継続しやすい点はiDeCoのメリットといえるでしょう。
専業主婦(主夫)がiDeCoを始めるには?

iDeCoの加入は、運営管理機関(iDeCoを扱っている金融機関)を通じて手続きをします。手続きの流れは以下のとおりです。
【専業主婦(夫)がiDeCoに加入する流れ】
- ① 金融機関を選ぶ
- ② 金融機関に加入を申込む
- ③ 運用を開始する
① 金融機関を選ぶ
iDeCoは1人1口座しか開設できないため、複数の金融機関を比較・検討したうえで選ぶことが重要です。
2024年9月時点で、iDeCoを取り扱っている運営管理機関は223社あります。銀行、信用金庫、信用組合、証券会社、保険会社など、さまざまな金融機関がiDeCoを提供しており、運用できる商品や手数料、サービス内容がそれぞれ異なります。
金融機関を選ぶ際のポイント
項目 | 選ぶ際のポイント |
---|---|
運用商品 |
|
サービス内容 |
|
手数料 |
|
サポート体制 |
|
金融機関によって運用商品の数や種類が異なるため、金融機関を選ぶ際はどの資産にどれだけ配分するかも含めて検討しましょう。
iDeCoの運用商品は、大きく分けて「元本確保商品」と「投資信託」の2種類です。元本確保商品は、原則として元本を下回ることがありませんが、利回りが低く、利益が手数料を下回る可能性があります。
一方、投資信託は運用方法によって資産を増やせる可能性がある一方で、利益が投資した金額を下回る場合もあります。
元本確保商品と投資信託をバランスよく組み合わせて資産配分することが大切です。
② 金融機関に加入を申込む
金融機関によって異なりますが、iDeCoの申込み方法はおもに郵送とインターネットの2種類です。
郵送で手続きする場合、金融機関に資料請求すると申込み書類一式が届きます。加入申出書に必要事項を記入・押印し、必要書類を添付して返送しましょう。インターネットから手続きする場合は、申込みフォームに必要事項を入力し、必要書類をアップロードして申込みます。
なお、掛金の額や配分の指定は、一般的に申込みの段階でおこないます。
③ 運用を開始する
申込みが完了すると、国民年金基金連合会による加入資格の審査が実施されます。審査の通過後、口座開設の通知が届き取引画面にログインするためのユーザーID・パスワードが発送され、口座開設の手続きが完了します。
iDeCoの運用開始のタイミングは金融機関にご確認ください。
配分の変更や預け替えなどは、ログイン後の取引画面で手続きが可能です。紛失しないように大切に保管しましょう。
初回の掛金が引き落とされるタイミングは、それぞれの金融機関にご確認ください。なお、iDeCoの掛金は原則として毎月26日(休業日の場合は翌営業日)に引き落とされます。
専業主婦(主夫)が老後資金に備える方法

専業主婦(主夫)の世帯は、共働き世帯と比べると将来受け取ることができる年金額が少ない傾向にあります。
一方で、日本の平均寿命(2023年)は男性が81.09歳、女性が87.14歳で、現在も長寿化が進行しています※7。長い老後生活が予想される中、将来に向けた自助努力の必要性がますます高まっています。
専業主婦(主夫)の方が老後の資金づくりを始めるときは、iDeCo以外の資産形成方法も含めて検討することが大切です。そこでこの章では、iDeCo以外で専業主婦(主夫)が老後資金に備える方法を解説します。
【専業主婦(主夫)が老後資金に備える方法】
- 国民年金の任意加入制度や付加年金制度
- NISA
- 貯蓄型保険
※7 「令和5年簡易生命表(男)」(厚生労働省) (https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life23/dl/life23-06.pdf)
「令和5年簡易生命表(女)」(厚生労働省) (https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life23/dl/life23-07.pdf)
国民年金の任意加入制度や付加年金制度
任意加入制度や付加年金制度を活用し、将来の年金額を増やすことを検討しましょう。任意加入制度とは、60歳以降に国民年金へ任意加入できる制度です。
老齢基礎年金を満額受け取るには、20歳から60歳になるまでの40年間、国民年金の保険料を全て納めなければなりません。しかし、20歳から60歳までの間に保険料を納めていない期間がある場合、60歳から65歳になるまでの間に国民年金に任意加入して保険料を納めることで、65歳以降に受給できる老齢基礎年金の額を増やすことが可能です。
さらに、任意加入期間中に月額400円の付加保険料もあわせて納付すると、老齢基礎年金に付加年金が上乗せされます(付加年金制度)。上乗せされる年金額は、「200円×付加保険料納付月数」で算出した金額です。
NISA
専業主婦(主夫)は、iDeCoに加入しても所得控除の恩恵を受けられないため「NISA(少額投資非課税制度)とiDeCoのどっちを選ぶべき?」と迷っている方もいるでしょう。
NISAは、一定の枠内で投資した金融商品の運用益が非課税になる制度です。2024年から、従来の一般NISAとつみたてNISAを一本化した新NISAが新たにスタートしました。iDeCoと新NISAのおもな違いは以下のとおりです。
NISAとiDeCoの違いと特徴
NISA(2024年~) | iDeCo | |||
---|---|---|---|---|
つみたて投資枠 | 成長投資枠 | |||
対象年齢 | 18歳以上 | 原則20~65歳未満 | ||
年間投資枠 | 120万円 | 240万円 | 14.4~81.6万円 | |
非課税保有限度額 | 1,800万円(総枠) (うち成長投資枠は1,200万円まで) |
制限なし | ||
対象商品 | 長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託 | 上場株式・投資信託など | 投資信託・保険・預貯金など | |
税制メリット | 積立時 | ー | 全額所得控除の対象 | |
運用時 | 運用益は非課税 | 運用益は非課税 | ||
受取時 | 上場株式の配当金等は非課税(株式数比例配分方式を選択している場合) | 退職所得控除・公的年金等控除の対象 | ||
引出制限 | 制限なし | 原則60歳到達まで引出不可 |
● 上記のNISAは2024年1月から開始した制度の概要で、2024年12月時点のものです。
● 国民年金の第2号被保険者、第1号・第3号被保険者で国民年金に任意加入している方、海外居住で国民年金に任意加入している方は65歳未満まで加入できます。
収入のない専業主婦(主夫)は、iDeCoで掛金を拠出しても、所得控除の恩恵を受けることができません。
一方、NISAには所得控除のしくみがありませんが、保有している商品を売却すれば、いつでも現金として引き出すことができます。
そのため、iDeCoで所得控除を受けられない専業主婦(主夫)の方は、口座維持費用がかからないNISAを優先的に検討すると良いでしょう。iDeCoは毎月5,000円以上の掛金を拠出する必要がありますが、NISAならより少額(つみたて投資枠の場合、月100円〜1,000円程度)から投資できます。
ただし、今後パートなどで働く予定があるなら、iDeCoを検討するのも手段のひとつです。
貯蓄型保険
終身保険や個人年金保険などの貯蓄型保険(満期を迎えたときや解約したときにお金を受け取ることができる保険)を活用すれば、死亡保障を得つつ老後資金を準備することができます。
終身保険とは、保障が一生涯続く死亡保険です。解約するタイミングによっては払込んだ保険料を上回る解約返戻金を受け取ることができる場合もあり、資産形成にも利用されています。終身保険は死亡保障が本来の目的であり、死亡保障を確保しながら老後資金を準備できます。
個人年金保険は、資産形成に重点を置いた保険で、払込んだ保険料を原資に保険会社が運用し、契約時に決めた年齢から年金を受け取ることができます。
終身保険や個人年金保険は、所得控除のひとつである生命保険料控除(払込んだ保険料に応じて所得控除を受けられる制度)の対象です。専業主婦(主夫)世帯でも、働いている夫(妻)が保険料を負担していれば、夫(妻)が所得控除の適用を受けられます。
ただし、解約返戻金を資産形成に活用する場合、保険料払込み期間中に解約すると、解約返戻金が払込んだ保険料を下回るケースがある点に注意しなければなりません。お金が必要となる時期までに保険料の払込みが終わるように保険料払込み期間を設定するなど、計画的に加入することが大切です。
専業主婦(主夫)のiDeCo加入に関するよくある質問

専業主婦(夫)の方のなかで、「iDeCoに加入しても意味があるのか」と迷っている方や、iDeCoに関する手続きに不安や疑問を感じている方もいるのではないでしょうか。そこで、専業主婦(夫)がiDeCoに加入する際や加入中によく感じる質問を紹介します。
Q:50代の専業主婦(主夫)がiDeCoに加入してもメリットはある?
専業主婦(主夫)の方が50代になってからiDeCoに加入した場合でも、一定の効果は見込めます。
金融庁の「つみたてシミュレーター※8」を用いて、運用益がいくらになるか試算してみましょう。
たとえば、iDeCoで毎月2万3,000円を50歳から10年間、年利3.0%で運用した場合、10年目の運用益は45万円になります。
通常なら、運用益から税金が差し引かれて手元にのこる金額は約35万円(45万円×源泉分離課税20.315% =約35万円)になりますが、iDeCoの運用益には税金がかかりません。
ただし、掛金が少額で加入期間も短いと、運用資金が少額になり手数料の割合が高くなるため、相対的に手数料の負担が大きくなってしまいます。専業主婦(夫)の方は所得控除によるメリットが受けられないことも踏まえ、慎重に検討しましょう。
※8 「つみたてシミュレーター」(金融庁)
(https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/tsumitate-simulator/)
-
iDeCoは原則65歳になるまで加入できる
-
これまで、iDeCoに加入できる年齢は60歳未満の方に限られていましたが、2022年5月以降、原則65歳まで加入できるようになりました。
ただし、iDeCoで60歳から老齢給付金を受け取るためには、60歳になるまでにiDeCoに加入していた期間等(確定拠出年金の通算加入者等期間)が10年以上あることが必要です。仮に50代でiDeCoに加入すると、60歳になるまでの通算加入者等期間が10年に満たないため、受給開始年齢が繰り下げられます。
iDeCoの加入期間と受給開始年齢
加入期間 受給開始年齢 10年以上 60歳 8年以上10年未満 61歳 6年以上8年未満 62歳 4年以上6年未満 63歳 2年以上4年未満 64歳 1月以上2年未満 65歳 ● 60歳以上で初めてiDeCoに加入した方は、加入から5年を経過した日から受給できます。
● 「DeCo公式サイト『iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等』」(国民年金基金連合会)(https://www.ideco-koushiki.jp/guide/structure.html)をもとに楽天インシュアランスプランニング作成
従来は、50代で加入すると、60歳になってから受給開始年齢になるまで、積み立てた資産の運用のみをおこなう空白期間が生まれていました。しかし、2022年5月以降は65歳になるまで拠出を続けられるようになったため、50代で加入するメリットが以前よりも大きくなったといえます。
ただし、専業主婦(主夫)の方は60歳になると国民年金の第3号被保険者の資格を失うため、そのままではiDeCoに加入し続けることができません。専業主婦(主夫)が60歳以降もiDeCoに加入し続けるためには、国民年金に任意加入して任意加入被保険者となり、保険料を納める必要があります。
また、任意加入被保険者となって引き続きiDeCoに加入するには、運営管理機関(iDeCo口座のある金融機関)での手続きも必要です。
Q:iDeCo加入者が退職後に専業主婦(主夫)になったら手続きが必要?
iDeCoに加入している会社員や公務員が退職し、専業主婦(主夫)になっても、引き続きiDeCoの加入は可能です。金融機関に「加入者被保険者種別変更届(第3号被保険者用)」を提出して手続きしましょう。金融機関や掛金の納付方法によって手続き方法が異なる場合があるため、詳しくは金融機関にご確認ください。
なお、勤務先で企業年金に加入していた方や公務員だった方が専業主婦(主夫)になると、掛金の上限額が2万3,000円に増えます。
Q:iDeCo加入者が専業主婦(主夫)からパートとして就職したときの手続きは?
iDeCo加入者が専業主婦(主夫)からパートとして就職し、厚生年金に加入した場合は、金融機関に「加入者被保険者種別変更届(第2号被保険者用)」を提出します。
なお、変更届には「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」の添付が必要なので、勤務先に記入を依頼しましょう。
まとめ
専業主婦(主夫)は所得がないため、iDeCoで掛金を拠出しても所得控除を受けることはできません。
しかし、運用期間中は運用益に税金がかからず、老後に年金または一時金として受け取る際に控除を受けられるというメリットがあり、老後資金を準備する方法として利用する価値はあります。
また、iDeCoは原則65歳になるまで加入できるようになったため、50代から加入しても一定の効果が見込めます。ただし、専業主婦(主夫)が60歳以降もiDeCoに加入し続けるためには、国民年金に任意加入して任意加入被保険者となり、保険料を納める必要があります。
所得のある配偶者はiDeCoを優先し、専業主婦(主夫)の方はNISAや貯蓄型保険を優先して利用するなど、夫婦で話し合って、より有利な方法を検討しましょう。
監修者情報
ファイナンシャルプランナー竹国弘城

RAPPORT Consulting Office (ラポール・コンサルティング・オフィス)代表。名古屋大学工学部機械・航空工学科卒業。証券会社、生損保代理店での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。お金に関する相談や記事の執筆・監修を通じ、自身のお金の問題について自ら考え、行動できるようになってもらうための活動を行う。ミニマリストでもあり、ミニマリズムとマネープランニングを融合したシンプルで豊かな暮らしを提案している。趣味はサウナ(サウナ・スパプロフェッショナル)。
- 資格情報
- 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®(日本FP協会認定)
※CFP®、CERTIFIED FINANCIAL PLANNER®、およびサーティファイド ファイナンシャル プランナー®は、米国外においてはFinancial Planning Standards Board Ltd.(FPSB)の登録商標で、FPSBとのライセンス契約の下に、日本国内においてはNPO法人日本FP協会が商標の使用を認めています。
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(掲載開始日:2025年3月17日)
2501047-2601
楽天インシュアランスプランニング株式会社 金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第1049号