知っておきたい!猫の慢性腎臓病の症状・治療法とは?

猫がかかりやすい病気について
公開日:2023年12月26日

慢性腎臓病は猫の宿命といわれ、高齢の猫の約35%がかかるといわれる病気です。慢性腎臓病とは何か、どういった症状を引き起こし、治療をするのかを知っておくことで、万が一に備えましょう。

猫の腎臓の機能を知ろう

猫の腎臓の機能を知ろう

猫の腎臓は腰のやや上部の背中側に左右それぞれひとつずつあります。腎臓にはさまざまな役割があります。

老廃物を排泄する

身体で不要になった物質を外に出し、血液の状態を保つ機能があります。たとえばタンパク質は、体の中で利用されるとアンモニアとなり、肝臓で尿素に変換され、腎臓によって尿の中に捨てられます。

浸透圧や体液量の調整

余分な水分や老廃物を尿として排出するのと同時に、必要な水分や電解質を再吸収したりすることで身体は常に一定の状態を維持しようとしています。

ホルモンの分泌

腎臓からは、赤血球の産生を促すエリスロポエチンと呼ばれるホルモンを分泌しています。

pHの調節(酸塩基平衡)

重炭酸イオンの再吸収や、水素イオンを排出したりすることで、体のpHは狭い範囲で保たれています。

ビタミンDの活性化

ビタミンDを活性化することで、消化管からカルシウム・リンの吸収を促進し、腎臓からは、カルシウムの再吸収を促進します。

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慢性腎臓病とは何か

慢性腎臓病とは何か

「腎臓病」は腎臓の機能が低下したことを指し、原因まで言及していません。そのため、腎臓病といっても、単に加齢により機能が低下している場合もあれば、免疫が関与する病気や、先天的な腎臓の奇形、結石、中毒など、さまざまな原因があります。

よく耳にする慢性腎臓病(CKD)といわれる言葉は、一般的に3ヵ月以上腎臓の機能が低下していることを指します。以前は慢性腎不全と呼ばれていましたが、「不全」とはダメージを負って体をうまく維持できない破綻した状態を指すことから、より早期に発見するために慢性腎臓病というようになりました。

中毒などによって急に腎臓に障害を受けることを急性腎障害(AKI)と呼び、これは、その後、腎臓自体に変化をもたらし破綻した状態である急性腎不全(ARF)へ移行しないように提唱された概念です。

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猫の腎臓病の診断方法は?

猫の腎臓病の診断方法は?

腎臓病の種類は多岐にわたり、その原因を探り、必要な治療をみつけるためにさまざまな検査をおこないます。

猫の腎臓病の検査

検査名 検査の内容
血液検査 腎臓の異常を数値で表します。
レントゲン検査 腎臓の形の異常を判断します。ある程度の大きさの結石もみつけることができます。
超音波検査 腎臓の中の構造の異常をみつけます。
尿検査 尿の濃い薄い(尿比重)や蛋白質が漏れていないかなどを検査します。
血圧 腎臓に負担のかかる血圧になっていないかを測定します。
生検 腎臓の組織を直接針でとってくることで、実際に腎臓で何が起こっているのかを診断します。身体への侵襲度の高い検査ではありますが、特殊な腎臓病が疑われるときにおこなわれることがあります。

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猫の慢性腎臓病の症状と国際的ステージ分類

国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)という団体が慢性腎臓病のガイドラインを公表しており、一般的に慢性腎臓病の場合はガイドラインに応じて診断、治療されます。

このガイドラインでは、慢性腎臓病を1~4のステージに分け説明がされています。
このステージ分類は、クレアチニンと呼ばれる血液検査の数値をメインとし、他にSDMA(対称性ジメチルアルギニン)、UPC(尿蛋白クレアチニン比)、血圧を加味して決定されます。

猫の慢性腎臓病のステージ分類

分類 説明
ステージ1 とくに症状はありません。しかし、このときにはすでに腎臓の機能は衰え始めています。定期的な健康診断(血液検査・尿検査)で発見できることがあります。
ステージ2 症状がないまたは、軽度な症状(多飲多尿)のみです。しかし、このときすでに残された腎臓の機能は3分の1を切っています。
ステージ3 毛づやの悪化、食欲不振、嘔吐、下痢などの症状が表に出てきます。
ステージ4 腎臓の残された機能は10%を切っており、集中治療が必要な状態です。貧血や痙攣(けいれん)等を引き起こすなど、命にかかわる状態です。

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猫の慢性腎臓病の治療方法は?

猫の慢性腎臓病の治療方法は?

腎臓は、治療によって機能がもとに戻ることがない臓器です。そのため、今ある機能をどううまく活用し、病気を進行させないかが重要なポイントとなります。

食事療法

リンやタンパク質が制限された、一般的に腎臓療法食と呼ばれる食事を与えることになります。早期にこの食事を与えたからといって、早いうちから効果を示すということはなく、むしろ早すぎるリンやタンパク制限はデメリットになるため、適切なタイミングで食事療法を開始する必要があります。

2023年に国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)が新しいガイドラインを発表し、その中には、リン制限のひとつの指標となるFGF-23という血液検査の項目が追加されました。
そのほか腎臓によいとされる成分は、抗酸化成分やω3脂肪酸などがあります。

腎臓病は進行していくと、次第に食欲が低下していくのが一般的です。体を維持するために必要な栄養素を摂取する必要があるため、本人のチカラのみで、維持量を摂取できない場合は、食欲増進剤やチューブ栄養を考慮することとなります。

血管拡張薬

腎臓病を悪化させる要因のひとつであるタンパク尿をおさえる効果があったり、血圧を下げることで、腎臓の負担をとる効果があったりします。血管拡張薬にはさまざまな薬の種類、剤形、味があり、病気の状態や、投薬のしやすさ等を考え、獣医師が薬の種類を選択します。

吸着剤

活性炭は、尿毒素物質を腸の中で吸着し、便として排泄することで、尿毒症を防ぎます。サプリメント等でも活性炭は販売されていますが、医薬品と効果が全く同じではないため、理想的には医薬品の使用がよいでしょう。

また、リンを吸着して便に捨てるリン吸着剤というものも使用されることも多いです。

皮下点滴

猫では人のように血液透析をすることは事実上難しいため、定期的に背中に点滴液を入れることで、脱水を改善し、腎臓の機能をサポートします。

症状が重くになるにつれ、点滴回数が増えることが一般的で、末期の状態になると毎日点滴をせざるを得ない状況になることもあります。皮下点滴の量は、本人がどの程度吸収できるかによっても変化します。かかりつけの先生の指示に従いましょう。

造血剤

腎機能が衰えてくると腎臓から血液を作れという指令をおくるホルモンであるエリスロポエチンが作られなくなり、腎性貧血を引き起こすことがあります。

このホルモンの代わりを注射で打つことで、造血を促します。造血に鉄の不足が考えられる場合には、鉄剤の投与も検討されます。

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まとめ

猫の慢性腎臓病の対策として健康診断は大切

慢性腎臓病を予防することは難しいため早期に発見し、状態にあわせた治療をおこなうことが大切。

腎臓の機能は年齢を追うにつれて低下してくことが猫では当たり前です。腎臓の機能が約3分の1以下にならないと、症状を示すことはなく、一緒に暮らしていると初期症状であるたくさん水を飲み、たくさんおしっこをする(多飲多尿)も見逃されてしまうことがあります。

そのため、健康診断をすることは非常に大切です。若いうちには年に1度、高齢になったら年に2回は血液検査や尿検査を受けることをおすすめいたします。

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ライター情報

獣医師成田なりた有輝ゆうき

成田 有輝
所属
yourmother合同会社 代表
略歴
1988年 埼玉県に生まれる
2007年 麻布大学獣医学部獣医学科に入学
2011年~ウサギのハート公開
2013年 獣医師国家資格取得
2013年~2019年 東京都内動物病院に勤務
2018年~DC one dish 設立
2019年 フードメーカー勤務
2020年~yourmother合同会社 設立
2023年 日本獣医腎泌尿器学会認定医取得
所属学会
日本獣医腎泌尿器学会、日本獣医エキゾチック動物学会

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(掲載開始日:2023年12月26日)
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